女性天皇や女性宮家に対する懸念の1つに、配偶者の位置付けがある。
歴史上、男性が国民として生まれながら、結婚を介して皇族になった
前例は無い。だから、女性天皇・女性宮家を認めて、その配偶者たる男性を皇族に迎えるのは、皇室の伝統に反するのではないか、という心配だ。これについては、2つの事実を知っておくべきだろう。1つは、皇室は「前例」を踏み越えることで、長きに亘(わた)る
存続と発展を可能にして来た、という事実だ。
例えば、皇位の“しるし”の三種の神器(じんぎ)の中でも
最も尊いとされる神鏡を、皇居から遠く離れた、伊勢の聖地に祀(まつ)
ることは、第11代・垂仁(すいにん)天皇より前には全く前例が無い
(これが伊勢の神宮)。或いは、わが国の君主の称号を「天皇」とするのも、第33代・推古天皇
までは例が無かった(“天皇”号が第40代・天武天皇から始まったとする
説もあるが、採用しない)。皇位の継承に伴う大嘗祭(だいじょうさい)も、20年に1度の
伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)も、前例の無い行事が、
天武天皇のお考えを受けて、第41代・持統天皇の代から始まった
(天武天皇の時の“大嘗祭”は皇位継承儀礼としてはまだ過渡的)。近い時代の出来事では、第124代・昭和天皇がお始めになった、
ご自身による宮中の水田でのお田植え等々。
どれも前例が無いものばかり。
それらを一切、否定すべきなのか。
むしろそのように、慎重かつ大胆に前例を乗り越えて行ける
“柔軟さ”こそ、皇室の偉大な伝統と言えるだろう。そもそも、皇位の安定継承を困難にしている、「側室不在」が
普通の状態となり、非嫡出による継承の可能性が排除された
こと自体、前例が無い。2つ目は、国民として生まれた女性が、ご結婚を介して
皇族になれるようになったのも、明治以来のこと。
それまで前例が無い。
だから、前近代の例に従えば、今の皇后陛下も上皇后陛下も、
或いは他の妃殿下方も、皆様、皇族の身分を得られなかったはずだ。しかし、これらの方々が皇族でいらっしゃる事実に、
僅かでも違和感を抱く国民は、ほぼ皆無だろう。
そうであれば、国民男性がご結婚という人生の一大事を介して
皇族になられるのも、特に変わりはない。
にも拘らず、このこと“だけ”に拒絶感があるという人は、
皇室の伝統とは関わりなく、単に男女差別を自明視する感覚の
持ち主なのではあるまいか。以上によって、女性天皇・女性宮家の配偶者を皇族として
お迎えするのは、至って自然なことであると理解できるはずだ。
なお、その場合、ご結婚に際して、皇后陛下や上皇后陛下、妃殿下方が
皆様、(皇族の代表と三権の長が一堂に会する)皇室会議の同意を
得られたのと同じ手続きを踏まれることは、改めて言うまでもない。【高森明勅公式サイト】
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